人吉市鹿目地区では、令和4、5年度の2か年にわたり、水害や台風の影響で傷んだ登山道を人の手で修復する取組を行いました。現場は人吉市の鹿目の滝から、鉾立山、田野から鹿児島に向ける道の一部。人吉球磨エリアの九州自然歩道ルートで唯一の舗装されていない登山道です。
今回実施した道なおしは、一般的な土木工事ではなく、人が原因で失われた山の生態を復元するものです。人が歩きやすい道にすることだけではない、山を守る取組であり、自然を観察しながら、道が壊れていく原因である水の流れや、道を使う人の心理を考え、道の周辺にある石や砂利、倒木などを使って道をなおす方法です。
2年間にわたって行った道なおしの取組をご紹介します。
令和5年3月道なおしのモニターツアーin人吉市
阿蘇山道整備の渡邊さんを講師に、2日間を通じて、なぜ道の保全が必要なのか、実際の作業を通じて、安全で自然と調和した道づくり、道なおしを体験していただきました。人吉球磨地域にお住まいの方だけでなく、熊本県内各地や近隣の霧島など県外からも参加いただきました。
1日目の座学で道なおしの考え方と他地域での取組事例を学んだ後に、登山道を下見します。道が崩れている場所、土砂で歩くべきルートが分からなくなっている箇所などを見ながら、なぜその状態になったのか、水をどのようにながすべきなのか、時間をかけて現場を観察します。
宿泊は道なおしの現場から車で30分、球磨村にある田舎の体験交流館さんがうら。1日目の感想を皆で話し合うこともできました。
2日目、いよいよ道なおしの作業です。水害・台風で積もった土砂、倒木や枝の除去、崩れる道の水の流れを考えて倒木で土砂をとどめる施工、深く浸食された階段道の補修、水の流れと人が歩く道を分かりやすくすることなど、どれも答えの無い作業です。参加者の間で議論をしながら作業を進め、気づくと予定の時間です。作業時間4時間弱、20mほどの道なおしを行いました。
作業としての楽しさは参加者の皆さんが口にされ、普段から山に入っている皆さんにとっても、意識をすると道の見え方が変わってくるという感想をいただきました。一方で、これらの取組を続けるためにはどうしたらよいのか、引き続き考える必要があることを参加者一同で認識しました。
令和6年3月トレイルの活用と管理を考える
ワークショップ
1年後に同じ場所でワークショップを行いました。ここのルートの日常的な管理を行っている鹿目地域の住民の皆さん、道なおしに関心をお持ちだった地区外の方、昨年の参加者にも参加いただいた開催となりました。今回は昨年道なおしを行った現場が、1年経過してどのようになっているのかを確認することが主な狙いです。講師は、昨年と同じく阿蘇山道整備の渡邊さん。
まずは、昨年同様「道なおし」の考え方を学ぶ時間。全国的に同様の道なおしの取組が進められている中で、経験を積みながら手法が進化していることをお聞きし、現場に移動します。
山道を30分ほど歩き、昨年道なおしを行った箇所に到着。当日は雨上がりの天気のため、現場の水の流れがよく分かります。昨年直した道がしっかりと維持されている箇所、土砂の堆積が期待したほどない箇所など、昨年の作業中に考えたことの答え合わせを行いました。
まだ、道なおしができていない箇所をみながら、今後どのような施工が必要なのか、皆で話し合う時間も持ちました。今後継続的にやっていくことの必要を認識したところです。
まとめ
今年のワークショップは地域の皆さんに多く参加していただきました。このルートに愛着を持つ皆さんからも、道を使う方と一緒に道なおしができること、この取組により地域外の方がたくさん訪れてもらえることを歓迎する発言をいただきました。道なおしの取組により山を守ることに加え、鹿目地域の美味しい米、里山での暮らしの豊かさを体験してもらう機会として企画を続けることも、考えてみたいと思いました。